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耳障り 「・・・はよかったでしょうか?」 [随想]

最近よく聞く言葉、「・・・はよろしいですか?」「・・・はよかったでしょうか?」これも御客様に失礼の無いように、いつでもどこでも同じ服務を提供しましょうという経営品質の考えに乗っ取って広げられたマニュアルが広げた言い回しであろう。

①商品を買って釣銭を受け取ると「レシートはよかったでしょうか?」
意味はレシートをお渡ししなくてもよいでしょうかの意味であろう。売買においては領収書、レシートを渡すのが普通だから何も言わずに渡そうとするのが売り手の取るべき態度で客が要らないといえば捨てればいいことだが、最近は渡さないのを前提にこのような質問を投げかけているように思う。「要ります」と答えて初めてレシートを渡すが、店員にとっては「渡さないのが常識」といった考えが広がっている事を示しているように思う。ここの「よいでしょうか」と「よかったでしょうか」の違いであるが、国語学的解釈がどうなのかしらないが、前者の時制は現在~未来を示しているだろうし後者は過去~完了の領域にいるように思う。だから後者はレシートをまだ渡してない段階で「あなたの売買行為は完了しました。早く帰ってください」といった響きを感じ取り、不愉快さが強いように思う。
②先日あるファミリーレストランに行った。料金は1025円。
Aさんは1100円を払い75円の釣りをもらった。Bさんはきっちり1025円を支払った。Cさんが2000円を差し出したところ、
店員がのたまう。「30円はよかったでしょうか?」
C 「????」
店員の意図は「2000ですと釣りが975円になりますから、1030円払って釣りを5円にしたほうがいいとは思いますが、釣りを975円渡してもよかったでしょうか?」という「よかったでしょうか?」なのでしょう。

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 おそらくどの言語でもそうであるが、慣用語というのはそのもともとの言い回しからある部分が脱落して完成する形式がある。日本語では「今日は良いお天気ですね」「今日はお元気そうで何よりです」・・・・・・・・・などの定型的言い回しから後者が抜け落ちて「今日は」「こんにちは」といった挨拶用語が出来上がった。近年では「こんにちわ」と表記する人間もいるが言葉の形成過程から言えば間違いという事になる。使われる頻度は少ないが前者が脱落して後者のみが挨拶に用いられる事もある。「ええ天気だんな」「よう降りまんな」「ええ顔色ですな」。「さようなら」も一時代前の言い方は「さようならば・左様ならば」であるという。そしてもっと前は「左様ならば私は帰ります」といった意味であった。
 このような省略形は狭い仲間内で使われ、それに触れた外部のものが新鮮さ・粋・かっこいいなどの共感を得れば徐々に人から人に伝わっていったのであり、「標準語」の前の言語を使っていた地域言語に取り込まれて「標準語」になったのであろう。標準語とは違う意味から転じた挨拶用語は日本国中に残っているであろう。「こんにちは」は関西では「いてまっか?」でも通じるでしょうし、さようならも所変われば「おみょうにち」(宮城)、「おやすみなんしょ」(群馬)、「ごぶれいしました」(熊本)、「んだらまず」(新潟)などさようならとは違う言い回しを基にした挨拶がのこっている。
 こういった言い回しはある特定の地域で時間をかけ熟成され、人々に受け入れられてきた。しかし最初にあげた「・・・はよかったでしょうか?」は(経営品質に取り組む)企業・チェーン店の顧客接待だけを目的に作られたマニュアルを介して店員のみにより日本全国で用いられ客に違和感・反感を生じさせている。熟成の過程とは異なりやや乱暴な広がりである。現在たしなみとして求められる手紙の時候の挨拶や、風呂敷という用語、高島田の髪型などが吉原の遊女街から来たものらしいが、こういった用語・習慣も急速に世俗に入ろうとすれば忌み嫌われたかもしれないが、時間をかけ徐々に受け入れられていったのではないかと思うところである。視点を変えると昔の感染症が人から人へゆっくりと世界に広がっていったが今日的な感染症はひとたび発生すると飛行機に乗ってあっという間に地球の裏側まで広がってしまうのと同じようにおもう。広がり方が早ければ早いほど受け手の対応が間に合わず、言葉の領域では反感、感染症ではパニックを生じさせる。しかも現代の「・・・はよかったでしょうか?」は省略部分が非常に長い、それゆえに受け手から見れば極めて勝手気ままな省略形にうつってしまう。このような勝手な省略形は店員が自宅に帰って市民に戻ったときにも使う事によりウィルスのように市民生活に入ってくる。マニュアル作成に当たる人は「乱れた日本語」と指摘を受けないよう、自己満足的な経営品質改善に取り組まないよう気をつける必要があるように思う。

 先日コンビニの売り上げが初めて百貨店の売り上げを上回ったとのニュースが流れた。不況の中高額商品を扱う百貨店が避けられる一方でタスポ効果で売り上げの伸びたコンビニが好まれたというのが大きな要因のようだが第一生命の行ったアンケートでは接客に対して最も満足度の高いのは百貨店で低いのはコンビにであるとの調査もある。コンビニエンスストアの接客戦略はもっと自然体で行うよう考える時期にきている。


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