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Our Daily Bread いのちの食べ方 [電影]

Our Daily Bread いのちの食べかたを観て

2005 ドイツ・オーストリア映画
 原題の英語訳はOur daily bread、日本語に訳すとみんなの毎日のパンという事で日々の糧と訳したほうが一般的かと思う。なぜいのちの食べ方の邦題をつけたのは想像するに森達也著 いのちの食べかた(理論社)2004年、の知名度を利用したのではないかと思う。書籍のほうは肉や、魚などの食材がスーパーに並んでいるものとしか理解できてない子どもにどうやって食卓に届くのかを教える食育の要素のある書籍である。
 映画はドキュメンタリーフィルムで食肉・野菜の生産現場を黙々と捉え続ける台詞のない作品である。環境音は聞こえるが、まるで無声映画の世界であり、その映画を通して受ける印象も台詞のある映画よりも幅が広くなるであろうと思う。
 ブタ・牛などの種付け場面というよりも精液の採取と注入の場面があったり、出産、それも立ったままの牛の腹を割いての出産があったり、ふ卵器のずらり並んだ所からひよこが帰ったと見るや一斉にふ卵器をあけ無数のひよこを取り出す場面があったりする。一匹づつ取り出すということはなく、ふ卵器ごとあけて生きたひよこを選別、かえってない卵は廃棄処分となる。かえったひよこは芋の子を洗うような状態でベルトコンベヤーで運ばれ次々とポリケースに詰められる。そのままいくつモノポリケースがトラックに載せられ恰もミカンの出荷の追うな状態で養鶏場に運ばれる。その後の扱いも同様でいっせいに養鶏場に放り出されるひよこであった。そしてその出荷は大きなバキュームで吸い込まれるようにトラックに積み込まれ屠殺工程に進む。どの鑑賞者も衝撃を受けたと書くのは鶏もさることながら、豚・牛の出荷から屠殺の工程である。次々と屠殺場に運び込まれ、意識を失い、足から吊り下げられ、身体の正面から真っ二つに刃物が襲う、おびただしい血液が出る、飛び出る内臓を処理する人々、熱湯がかけられ滅菌処置が行われていく。家畜は吊り下げられたまま移動し各工程を進む、最後に床に落ちた血液などを丁寧に掃除する工程が残る。従事する人々は会話を交わすことなく黙々と無表情に働く。魚の解体も然りである一匹一匹が瞬く間に解体されコンベアーを進む。キューリ、パプリカ、トマト、リンゴ、オリーブなどの収穫も映し出される。ここでの収穫は作物の間を定速で動く機械に乗った人々が無表情に、忙しく作業する。話をする余裕のないスピードである。最後に残るのは残骸ともいうべき茎と葉だけの作物。従業員はこれをごみ掃除をするように取り去り、次の種まきに備える。これらの工程は順不同にオムニバス映画のように映し出される。家畜の場面があったかと思うと野菜の場面が映し出されるわけである。ごく短時間であるが従業員の生活が垣間見られる。個々も殆ど会話はなく、うつろな目で質素な食事をするところであった。観客は92分間画面に釘付けになる、無論ポップコーンを食べる人などない。
 この映画の目的は邦題の付け方でも分かるように私たちが口にする食べ物が実はこのようにして出来るのだという事を教える事であろう。「あーこうしてるのか、知らなかった。」どの観客もここまでの感想は同じなのだろう。話題性のある映画なのでいろいろな感想がネット上で読めるが、家畜に関する表現は多いのだが、野菜に関する表現は余りない。鳴き声をあげたり、血が出たりして人々に与える衝撃は勿論家畜のほうが大きいが、野菜の場面に来るとほっとするといった表現をしている人がいるのは少し驚いた。この作品がオムニバス形式で家畜と野菜の区別なく“収穫”場面を映し出しているのは何れの食物も誰あろうヒトが食べる食物という点では同じであるということを訴えているのであろうと思う。血が出るから衝撃的だという事ではなく、ヒトは自らが生きるためにこれらの動植物の命を犠牲にしているという事を感じ取るべきであろう。全ては飽食に生きる現代人のための営みなのである。その食を支えているこの映画に出てくる人たちの食事が極めて質素なのは対照的であるが、彼らこそが、私たちに代わって命を奪う役を買って出てくれている事に思いをはせるべきなのだろう。しかし、その現代人は食物を得るための過程を全く知らないか、意識しないで生きている。パック詰めされた食物からはあまり命を意識する事はない。よく、食育の現場では日本人は食べ物の命を意識するから“いただきます”といって食事を始める特異な民族である事が強調されるが、現実には“いただきます”の意識からは最も遠い民族なのではないだろうか?自給率40%を割り込む国にあって25%を食べ残し、期限切れなどの理由で捨てていく民族のどこに“いただきます”の意識が残っているのかと思ったりもする。そして“いただきます”の現実を知らずに快適に食べる人々のため黙々と働く人々に対する意識もきわめて薄いのではないかと思う、曰く犬殺し、牛殺し・・・・。この映画は私たちの命がたくさんの動植物の命の犠牲の上に成り立っている事を黙々と教えてくれる映画であると思う。まだ見てない方はぜひとも観て頂きたい作品です。

予告編へのリンク
http://www.unsertaeglichbrot.at/jart/projects/utb/website.jart?rel=en&content-id=1130864824948
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