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おくりびと [電影]

おくりびとeiga.comホームページより。

監督:滝田洋二郎 脚本:小山薫堂 音楽:久石譲

キャスト:本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、橘ユキコ、吉行和子、笹野高史

おくりびと.jpg

 まずは、日本映画のおくりびとがモントリオール映画祭でグランプリに輝き、中国でも金鶏賞を獲得した事を素直に喜びたいと思います。ハリウッド映画に代表される莫大な資金をかけた映画が、その画像で人を圧倒、感動させるのは当然として、このようなそれほど資金を使ってないであろう作品を丁寧に作って人を感動させる事が出来る事はすばらしいと思います。
 映画の魅力のひとつは私たちが日常出会うことの出来ない世界を教えてくれる事に有り、納棺師という新たな世界を教えてくれる作品だという感想は余りにも単純でしょう。山崎努演じるNKエージェント社長がniche industryと表現したように、こういう他人の避ける産業は上手くやると儲かるというのも事実で、何年か前アメリカでは殺人現場などを清掃する産業が有るという話を聞いたことがありますが、これも映画の主題ではない。
 現在日本人は「死」というものを余り身近で経験する事はなくなったとよく言われます。毎日のように殺人事件だの、自殺だのの報道に接しているではないか、これほど「死」の話を聞いているという意見も有るかも知れないが、それは単に「死」の情報を得ているだけで「死」を体感しているわけではない。何も好んで体感する必要はないが古来生きていれば何らかの体感の機会を持ってきたが、社会の発展というか快適な生活を願う人々の欲求は「死」の体感を遠ざけてきた事実が有る。そしてそれを代行する人々をあまり自分の身近な存在にはしたくないというのが現代なのではないだろうか?
 現在日本人の80%が病院で亡くなっているという事実が有る。裏を返せば臨死の時間を家族で見守るという時間は以前よりきわめて短くなり、その代行を医療職に任せている傾向が強いといっても良いだろう。この数字は「死亡場所の国際比較」syou21.blog65.fc2.com/blog-entry-191.html  によるとアメリカでは41%、オランダでは35%であるとのことで、日本はかなり特異な存在といえるかもしれない。そして葬祭産業が育ってくる。一世代ほど昔なら病院で亡くなっても遺体は自宅に戻り皆で寝ずの番で通夜をし、村の人々とともに棺おけに遺体を収め村の行事として葬儀を行っていた。埋葬まで遺体は厳然として目の前にあったものである。現在は無くなると看護師により死化粧やら綿詰め、着替えなどをしてもらった後病院の遺体安置室に移される。その後家庭に帰る遺体も有るが、近年の住宅事情からそのまま葬儀屋を借り切って通夜・葬儀をすることが多くなってきているようである。最後の入院のときもうこの家には二度と帰れないといった思いを秘めて入院する人々が多いのではないかと思う次第である。
 宗教研究家のひろさちやさんによると、葬儀は元来そこに住む人々が「死」という事を恐れつつ行う習俗であり宗教儀式ではなかったが、日本では江戸時代に檀家制度が整えられるにつれ仏教の儀式としての体裁が整えられて次第に人々の手元から離れてきた歴史が有るということである。そして葬祭産業が出来るにつれ更に儀式化が進行し「死」を体感する機会が減ったのと同様に「葬儀」もまた人々の手から徐々に遠のきつつある。
 この映画は納棺師という職業を通して葬儀をバーチャルに体感させる意味で新鮮である。山崎努・本木雅弘演ずる納棺師が遺体の尊厳を保ちつつ納棺する儀式を通して映画の鑑賞者は遺体に対面する事になる。はるか昔の遺体と家族との関係とは異なると思うが、宗教の存在しない環境で遺体と家族の関係を儀式的に演出する事で家族に最後の別れを体感させている。先にも述べたが病院で亡くなると死化粧や着替えなどは病院で家族のいないところでしてしまうことが多いので、この映画のようにその一部始終を家族の目の前で行うことは現実的には少ないと思う。また本木演ずる大悟の父親の葬儀屋のように産業化された葬祭産業は遺体と家族との関係をもっとドライに扱っているかもしれない。しかし、この映画は納棺師の儀式を通して、観衆にもっと遺体と自分との関係を見直してもいいのではないかと問いかけているように思う。より深い別れをすれば故人は残ったものの心に強く残される。この作品で扱った石文に用いた石ころでさえ大きな意味を持つ事になるのであろう。宗教儀式ではなく、もっと真正面から亡くなった人と自分との関係を思い起こして過す必要を訴えかけている故に多くの人々の心を打つのだと思う。滝田監督もモントリオールグランプリの受賞の弁で、日本とは生活スタイルの違うカナダで評価されたのはうれしいとコメントしているが、死者との別れは宗教を超えた根源的なものだからカナダでも評価されたのであろう。
 そしてこの映画のサブテーマは以前このブログでも書いたour daily bread(いのちの食べ方)と共通するものが有る。つまり私たちが生きていく事は食べる事であり、何かの死を前提に生きている事を思い起こさせようとしているのである。「死」を体感したくないがゆえに食産業に任せている植物・動物の死を、人の死を見つめる事で同時に見つめなおすよう働きかけているように思う。そして体感したくない「死」の代償として汚らわしいものと考えている葬祭業者や屠殺業者などのお陰でcomfortableな環境を得ていることを忘れるなというメッセージを隠している。
 とにかく秀作と思う。作品の中で主人公もまた偶然に始めた仕事を通して「死」を見つめなおし成長していく。観衆もまた大悟とともに考え直すいい機会になると思う。上演が始まったばかりなので鑑賞体験を共有したい作品です。[ひらめき]


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factory coach outlet

私は決してこのような素晴らしい記事を読んでいるし、私は戻って明日の続きを読むに来ています。
by factory coach outlet (2011-03-15 11:19) 

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