SSブログ

南京・引き裂かれた記憶 [電影]

南京・引き裂かれた記憶_表.jpg 

  題名から想像に難くないと思うが、このフィルムは南京大虐殺に関するものである。中国ではれっきとした政治のひとこまであり、大虐殺をテーマとした記念館が建てられていることを知っている人も多かろう。今年はこの事件を主題とした映画の一つ「南京!南京!」が大ヒットを記録した。その一方で日本の政治では「はたして南京大虐殺は存在するのかどうか」が問題になる。この違いは何なのか、この事件は東京裁判でも認めており、中国史だけではなく世界史上の事件としても存在するのに日本史には存在しない奇異な状態が続いている。
 そもそも歴史には正史と正史ではないが裏の歴史といったものが存在する。大まかに言って正史は妥当な内容だが、場合によっては裏の歴史のほうが正しかったりする。一般に正史は時の支配者が編纂する為、支配者にとって都合の悪い部分はうまい具合に改竄されていることが多い事が知られる。そして、世の中には歴史にはならない歴史がある。つまりその時代に生きた民衆一人一人の個人史であり、これのintegrationが真の歴史であるが、余りにも膨大なデータであり、誰もまとめる事は出来ない。
 しかし日本国内で南京大虐殺の事実を知りたいと思う市民が、ある意味政府に業を煮やし、自らの手で個人史の収拾をし、まとめあげたのがこのフィルムである。素材は日本軍の元兵士、南京開城の生き残り中国人で、それぞれ250人、300人から聞き取りを行なったという。元兵士からはそれぞれが行なった、殺害・強姦・強奪などが語られる。そしてそれぞれが経験した事を全ての兵がやったと仮定するとそれは大虐殺だろうと語る。そして中国側からは無差別殺人を目のあたりにして、なすすべもなく日本軍のするがままになっていった事実が語られる。これら現場で生きた人の話をまとめると南京侵攻は南京大虐殺であったと思わざるを得ないというのが私の感想だ。
 彼らの語る話はショッキングであった。
--------市民を含む無差別殺人はだれの命令だったんですか
「命令なんてそんなもん無い、皆がやるからやったんや。戦争中の命令がはっきりしとんのは、弾の音のせん時だけで、弾の音が聞こえるときはこちらも生きるか死ぬかの問題だ、命令なんて言うとられん。」
「誰かが、天皇陛下の命令だと言っとった。逆らえば軍法会議にかけられるでな」

ここから読み取れるのはどうも殺害ははっきりとした作戦としては実行されず、当時の中国に展開する日本陸軍としては皆殺しというのは当たり前と行った考えが蔓延していたのではないかと推測させる。だから命令があったかどうかは問題ではなかった。当時の日本に関しては軍に対するcivilian controlがなかったことは皆の知るところであるが、軍の内部にあっては○○征服といった大目標は上層部のはっきりとした命令であろうが、個々の中隊、小隊に関するコントロールはまた存在せず、誰が言ったかも分からないような天皇陛下の命令だという殺し文句で兵が動いていたように思われる。それゆえに日本政府の正式文書を調べても大虐殺は無いのかもしれない。また一般市民収容所の人々を集団で殺害した話も出てくるが、その動機は収容施設がいっぱいになったから、生かしておくとまんまを供給しないといけないからといった単純なもので、ナチスのホロコーストが管理された情況で起きたことと対照的である。情況を一言で言うと無秩序といえる。方法もまた単純で、収容した倉庫を丸ごと焼き尽くすといった方法を取った。無差別殺害にどちらが人間的だということも無いであろうが、ナチスよりも非人間的であったと感じる。

---------強姦はどのようにして行なわれた?、どう思う?
「若い盛りの兵隊やでな、嫁の無いものは我慢できたが、嫁の居るもんは我慢できるわけ無い。」
「わしらも死ぬか生きるかの世界に居った出な、人間のすることやない、畜生になっとったわけや。中国の娘らはかわいそうやったと思うけど、そんな時代さな」
「数人で難民のいるところに行って、引っ張ってきて小隊レベルで飼っとった。」
「憲兵も何も言わんし、軍医は中国は不衛生だから注意するようにと性病をチェックしてからやるようにと指示受けた。最初は皆で脱がしてチェックしとったけどそのうち蔑ろになり、病気になった奴が居る。そいつは軍医に注意を受け取った。」
「宿舎でもあったけど、行軍中もあった。その時は背嚢だけはずして銃剣は着けたまました。した後で銃剣で殺害する事もしょっちゅうやった。」

強姦に関しても統制だったものではなく、まさに犬畜生のように好きなようにやっていた事実が浮かび上がる。あるものは自分たちの所有として飼い、あるものは目的を果たすと殺害した。年齢も娘から、ばあさんまで供用したといっている。中国人側の証言では当時8才で強姦されたと言う証言があった。親子並べての強姦、輪姦、母・息子への近親姦の強要等々、ここまでするかというほどであり、おそらく従軍慰安婦問題を遥かに越えた無いようであったと想定される。
----兵士に聞くあなたの小隊が10人いたとして何人くらいしましたか?
「10人くらいやろ」
----それはあなたの隊だけですか?
「どの隊もしとった」
殺害同様大規模に行なわれた事が浮かんでくる。

 ベトナム戦争も然り、イラク戦争も然りだが戦争帰りの兵にPTSDなどの病態が報道される。非人道的行為を行った反動と解されるが、70年という時間がそうさせるのか、不思議な事に証言する人々にそういった雰囲気はなく、あの頃は犬畜生だったという事で自分を納得させているかのようだった。しかし、毎夜南京で虐殺したものの亡霊が殺しに来ると夜中に騒いでいた老人もいたことはいたという。映画で証言に出てくる人々から共通して感じるのは、天皇の名で紙切れ一切れでいつ死ぬか分からない情況に掘り込まれて、まともな人間でおれるわけ無いだろといった精神状況を感じる。それは戦争という生活を自らに課すには必要な反応なのかもしれないが、神風特攻隊や、回天乗組員のまさに御国のためにと言った悲壮な精神状況とは異質である。考えてみたら現代生きる人の倫理観も一様でなく、戦時中の倫理観も一把一絡げにいえるものでないという事であろう。
 南京侵攻からもう既に70年、旧日本軍兵士も、南京の生き残りの人も高齢で、大虐殺があった、なかったなどといった意地を張っている間に次々と世を去る時期に来ている。歴史の遺産としての名も亡き者の遺産の収集は今しか出来ない。そういった意味でこの映画を作るもととなった実行委員会の皆様の活動に敬意を表したい。そして彼らの活動の成果は学問的な意味でなく、個人史の集積から南京で虐殺が行われたということを明らかにしているということだ。


nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 1

coach outlet

私は本当にこのウェブサイト、およびより書くことを期待のようなお客様の情報をありがとうございます。
by coach outlet (2011-03-15 11:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。